2004/06/01
[語り部]
……やあ、あんたかい。
……嬉しそうだね、何かあったのかい？
……まぁ、いいんだそんなことは。
人間、生きていると、嬉しいことも
あれば悲しいこともある。時には、
その理由すら忘れてしまうくらい、
怒ったり泣いたりすることも
あるだろう。
そういうのが人間らしいって
ことなのかな？だけど、
喜びとか怒りとか悲しみってものは、
人間だけにあるものじゃない。
例えば、ついこの間の事だけど、
フェイヨンとアルベルタの間にある
迷いの森に、狼の群れが現れたらしい。
狼達は、森の中を当てもなく
彷徨い続け、遠吠えを繰り返して
いたそうだよ。
何かを探して、呼びかけていたのか……
何かが見つからずに、泣いて
いたのか……
強い思いってのは、自分だけ
じゃなくて、多かれ少なかれ
周りを巻き込んでいく……
なぁ、あんたは我を忘れるほど、
何かに夢中になったことがあるかい？
- いいえ、まだ……
そうか、きっとあんたにも見つかるよ。
そのうちね。
それがあんたに何をもらたすかは、
分からないけれど……
- そんなもの必要ない
……
生きているって事と、生きていくって
事は、違うと思うんだ。
生きていく上で必死であることが、
絶対に必要とは言わないけれど……
- もちろんです
へぇ……そいつは幸せだね。
時が経つのも忘れるなんて言うけど……
限りある時をかけて事を成す。
うらやましいよ。
悠久の時を何の目的もなく過ごすなんて
苦痛でしかない……
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